第65章 何も代わりにならないものはない

「咲子、先に戻って仕事して」

菊地瑠奈がついてきて、高野咲子にそう指示すると、長谷川栞の背中をそっと撫でた。

高野咲子としては、この機に推しをもう少し気遣いたかった。けれど長谷川栞とは、まだ踏み込んで心配できるほどの距離じゃない。

「がらがら……」

うがいを終えた栞は、強い吐き気に眉を寄せ、顔色がわずかに青白い。

瑠奈が不安そうに覗き込む。

「栞、病院行く? 診てもらったほうがいいよ」

血の気がなく、見ているだけで怖いほどだ。

栞は小さく頷いた。確かに、ここ数日、妊婦健診に行けていない。けれど――。

「……この2日くらいで、先生に予約入れてみる」

「うん。決まったら電話し...

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